2016 異文化経営学会発表

2016 異文化経営学会研究大会 @立正大学

異文化の市場における従業員の動機付け:経営人類学的考察

本発表は、人類学的視野に基づき、企業の経営、特に従業員の動機づけに関して考察していく。具体的には、香港に事業を展開している日系小売業(A社とする)を事例とし、①当該企業が如何に海外市場において、顧客サービスの改善を目的に、金銭的・非金銭的報酬によって従業員の動機づけを図っているのか、②従業員側は、どのような考えのもとで行動しているのか、③企業と従業員がどのように相互作用し、経営プラクティスに影響しているのか、について検証する。本発表のデータは、発表者が1年半行った参与観察(participant observation)に基づいている。

多くの異文化経営に関連する研究では、過度に文化の相違に注目している傾向があり、企業制度が従業員に及ぼす影響に十分目を向けていない。また、研究視野としては、経営側からであることが多く、従業員の「声」が十分に反映されてこなかった。本発表では、海外に積極的に事業展開を行っているA社に注目し、従業員の目線から、如何に企業の制度が従業員の考えに影響し、従業員の人間関係が経営に影響しているのかについて分析していく。

まず、A社の顧客サービス向上を意図した金銭的・非金銭的報酬のシステムについて分析する。顧客サービス改善の基準となるマニュアルを分析した結果、「曖昧な評価項目の記述」、「強い日本的要素」といった特徴があることが明らかになった。そして、顧客サービスの評価過程では、「絶大な権限を持つ店長像」が見られた。次に、如何に上述の制度的な特徴が、従業員の人間関係に影響しているのかについて考察する。その結果、これらの制度的な特徴が、「欠点」や「不公平な評価基準」として従業員の目に映り、彼らの職場関係に悪影響を及ぼしていたことが判明した。最後に、詳細な事例を通じて、如何にこのような従業員間のコンフリクトが「非協力」的な行動を促し、結果的に、顧客サービス向上の目標達成に至らなかったのかについて明らかにする。

本発表は、異文化市場において経営を行う際、文化的な相違点だけではなく、「曖昧な評価項目の記述」、「強い日本的要素」、「絶大な権限を持つ店長」といった制度的要因がモチベーションの低下に影響を及ぼすことを明らかにしている。そして、従業員の間に生じたコンフリクトが、企業の期待する結果の達成を困難にすることも経営を考える際、考慮すべきであると示唆している。

 

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